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Martin Stephenson & The Daintees [UK]


California Star

California Star

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Barbaraville
  • 発売日: 2010/10/11
  • メディア: CD


  ただいま絶賛改装中の、タワーレコード渋谷店ですが、完全リニューアルの
前に洋楽フロアがオープンしていたので、ちょっと立ち寄ってきました。
  その際に買った2枚のうち1枚がこのCDです。

  Martin Stephenson の名前を聞いて、「なつかしい!」と思う人はごくまれ
なネオアコファンでしょう。 Prefab Sprout で有名な New Castle の Kitchen
Ware Records からデビューした彼らは、素朴でカントリータッチなサウンドで
一部のファンの熱狂的な支持を集めました。 ファースト「Boat to Bolivia」に
収録されている「Crocodile Cryer」などは名曲として知られています。 アルバム
の完成度と名曲の多さでは、セカンドの「Gladsome, Humour & Blue」だと
思います。 バラエティに富んだ楽曲の数々はノスタルジックな香りに包まれた
まま永遠に輝くことでしょう。

  前置きが長くなりましたが、そんな彼らの最新作がこれ。 まだ活動して
いるとは思いませんでした。 本来なら、スルーしてしまってもいいほどだった
のですが、このジャケットとタイトルに負けて、ためらうことなく購入に至りました。

  このジャケットは、あの The Pale Fountains のデビューシングルのジャケットに少し似ていると思いませんか? Twilight Records からのあの7inchです。
  そして、カリフォルニア・スターというタイトルも、なんだかズルい感じがしま
す。 内容が悪い予感をまったく与えません。

  で、サウンドはどうかというと、全盛期の彼らのたたずまいを秋のススキの
ように綺麗にかれさせたような雰囲気で、おおよそ予想通りのものでした。
Martin のダミ声も当時より年季が入った感じですが、悪くないです。 ゆったり
した楽曲が並んでいるために地味な印象はぬぐえませんが、タイトル曲の「
California Star」や「Silver Bird」などはメロディの良さが引き立っています。 
 
  このアルバムを手にした日本のファンがどれだけいるのかわかりませんが、
かつてのファンであれば、大道芸のあとにチップを渡すような軽い気分で
向かい合ってみるのも悪くないと思います。 日本に来ることはないのでしょうね。

  きっと。


Simon Dalmais [FRANCE]


The Songs Remain

The Songs Remain

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Apres-midi records
  • 発売日: 2012/08/12
  • メディア: CD


  もうすぐ8月も終わり。 残暑はまだまだ続いていますが、高いところに漂う
絹雲の透き通った感じは秋の訪れを感じさせます。
  あー、今年は海に一度も行かなかったなあ、なんてことを口にしても、実は
さほど後悔はしていないのですが、今年に限ってはビーチ・ボーイズの来日を見逃し
たことが、じわじわと胸に押し寄せてきます。


  そんななか、ビーチ・ボーイズの「Friends」とベン・ワットの「North Marine Drive」
を結ぶような名盤、というフレーズに激しく高揚してしまったアルバムを紹介します。
  しかも、ジャケットも素晴らしく、「The Songs Remain」というタイトルも泣けてきそう
なこのアルバム。 その主人公は Simon Dalmais というフランス人でした。 シモン
・ダルメ、と発音するようですが、このアルバムは彼のデビュー・アルバムだそうです。
  アルバムの音はまろやかなピアノの音色、眠たそうなボーカルが、繊細な絹の
ヴェールに包まれたかのように淡く進行していきます。 インストの曲は、映画の
サウンドトラックのように聴こえてきたり、ひとつひとつの音の丁寧なたたずまいは、
心に沁み入り、深いリラクゼーションへといざなってくれます。 ちょうど、日が短く
なってきた今頃の季節に、暮れゆく海辺で聴いたら、それ以上何もいらないと思え
るような気がします。 そんな景色や風のざわめきさえも、自然に溶け込んでいき
そうな、そんなサウンドなのです。

  このアルバムを聴くのは9月がベストでしょう。 昨日の夜に久しぶりにカラオケ
に行って、9月にまつわる楽曲ばかりをチョイスしていました。 ユーミンの「晩夏」
とか「9月にはかえらない」など、生音&しっとり系の曲ばかり。
  その翌日にこのアルバムを聴いて、自分の心と体が完全に秋を待ち望んでいる
ことに気づいたのです。
  8月はもう1日ありますが、すでに僕の目につくところにあるカレンダーはすべて
めくられました。 
  一番好きな季節、秋の到来です。


Dexys [UK]


One Day I'm Going to Soar

One Day I'm Going to Soar

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Bmg Europe
  • 発売日: 2012/06/12
  • メディア: CD


   レコード店でCDの陳列を見ていると、熱心に売りたい気持ちが伝わって
くるタイトルばかりとは限りません。 なんとなく、どこに置いていいか、わから
ないような感じで、こっそりと再発コーナーの近くにあったりする新譜もあるもの
です。 今日、取り上げたこの Dexys のアルバムもその仲間。 僕の目に
映ってしまった以上、救済してあげないといけない義務感にかられて、購入
に至ったものです。

  この Dexys の新譜については、春のうちから発売されることを知っていま
した。 当初はオリジナルの名称である Dexys Midnight Runners で発売さ
れるものと思っていたのですが、いろいろな事情があって Dexys としての
リリースとなったようです。 ということで、このアルバムはあの「カモン・アイリ
ーン」で全米・全英ナンバーワンを獲得した伝説的なバンド、Dexys Midnight
Runners の事実上の再結成アルバム。 4枚目の作品と考えていいでしょう。

  しかし、メンバーはリーダーのKevin Rowland に加え、初期に脱退し、The
Style Council で有名になった Mick Talbot を軸にしたものとなっています。
トロンボーンで Jim Paterson が参加していること、ギターで1970年代から
セッションを中心に活躍した Neil Hubbard が参加しているところあたりが、
コアなブリティッシュ・ロック好きにはひっかかるところでしょう。

  Kevin Rowland に関しては、ソロの2作目あたりで、ゲイに大変容を遂げ
たあたりから、遠ざかっていましたが、このアルバムでもソングライティング、
ボーカルとその存在感は圧倒的。 実質的に彼のアルバムとみなしてもいい
ような仕上がりです。 個人的には、Dexys Midnight Runners の最高傑作
は3枚目の「Don't Stand Me Down」ですので、その延長線にあるサウンド
は悪くありません。 より渋くなったとコメントできればいいのでしょうが、「Don't
Stand Me Down」がすでに渋すぎて、これ以上進めないアルバムだったの
で、むしろ普通にだらけて老人になったというほうが、正しい表現だと思い
ます。

  ということで、購入して後悔はありませんし、僕が買わなかったら、誰が
買うんだ!という義務感も否定しません。 おそらく来日などもないでしょうし、
このまま数年したら忘れられ、あるいは入手すら困難になってしまう可能性
も捨てきれません。 ということで、往年のファンにはその発売だけでも、認知
してもらいたいアルバムです。

  但し、大ヒットした2枚目ではなく3枚目を通過していることが、このアルバム
を受け入れる条件となることだけは、申し添えておきます。


Fiona Apple [USA]

  
アイドラー・ホイール

アイドラー・ホイール

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2012/07/04
  • メディア: CD


   知名度もあり、一般的な評価が高く、音楽そのものにも興味があるのに、なぜ
か、しっくり入ってこなかったり、うまく消化できない...。 そんなアーティストは誰にも
いると思いますが、僕にとって、今日とりあげた Fiona Apple もその一人です。


  そんなこともあって、実に7年ぶりの彼女のアルバムとの向かい方も、特段に
身構えるようなものではありませんでした。 もちろん、過去の作品との対比もできま
せんし、過剰な期待もしないで聴くこととなりました。
  よく、考えると、そんな気持ちで聴くレコードって、そんなに多くないかもしれません
ね。 平常心、というのは陳腐な言い回しですが、まあたまには悪くないでしょう。

  アルバムの冒頭は、日本の祭囃子みたいなサビが印象的な「Every Single Night」
でスタート。 このダサい感じは妙に新鮮。 5曲目の「Left Alone」に象徴されるように
アルバムはパーカッションの存在感が特徴でしょう。 ピアノの弾き語りのような、ありふ
れたシンプルな楽曲もあるのですが、彼女の個性はこうしたトリッキーな違和感に包まれ
たほうがまっすぐに伝わってくるような気がします。
  
  むかし、誰かさんが Fiona Apple の名前をみて、「アメリカの椎名林檎か?」と言った
とか言わないとか... でも、このジョークもあながち大きく外したものではないかもしれませ
んね。 双方のファンに怒られてしまうかもしれませんが。

  最後に、このアルバムのタイトルを全文表記しておきましょう。 こういう長文をタイトル
にするあたりで好き嫌いが分かれてしまうし、門前払いされてしまう危険性もあると思う
のは余計なおせっかいでしょうか。

The ideler wheel is wiser than the driver of the screw and whipping cords will serve you more than ropes will ever do.


Paul Buchanan [UK]


Mid Air

Mid Air

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Pid
  • 発売日: 2012/05/29
  • メディア: CD


   このアルバムを手にした人のほとんどが、その人にとっての今年のベスト
・アルバムになるに違いないと思っているはずです。 そういう自分もその一人。
そのくらい、このアルバムに対する期待は高いものでした。 静かな部屋で、
ひとりぼっちで聴き終えた後の、ぼんやりした余韻に、次に自分が何をすれば
いいのかわからなくなくなってしまった人も多いのではないでしょうか。

   Paul Buchanan (ポール・ブキャナン)は、イギリスのロック・ミュージックの
最も深くて奥まった部分にひっそりと存在する孤高のバンド The Blue Nile の中心
メンバー。 The Blue Nile といえば、寡作で有名なバンドで、1984年のデビュー
作「A Walk Across The Rooftop」、「Hats」(1988)、「Peace At Last」(1996)、
「High」(2004)と28年間で4枚のアルバムしか発表していません。 
   そして、2012年、The Blue Nile 名義の最新作から8年という順当な間隔を
経て、届けられたのが、Paul Buchanan の初めてのソロ・アルバムなのです。

   この事実だけで、十分。 届いたCDも数日間寝かせてから聴いたほうが、
いいのではないかと思ってしまうほど、貴重な出来事と言えるでしょう。

   この作品に対するレビューとしては、ミュージックマガジンの7月号、200
ページに掲載されている渡辺亨さんの文章が素晴らしいので、ぜひ、ご一読
ください。 『ほぼ声とピアノだけで綴られた「喪失」と「回復」のアルバム』という
見出しは、まるで小説の帯に書かれているようなフレーズですが、まさにその
とおりの内容です。 もともと、The Blue Nile の音楽は夜更けから夜明けに
かけてが似合うものだったのですが、電子的な音が排除された本作は、さら
に闇のなかにゆっくり踏み出していくような感覚です。 彼にしか描くことが
できない、絵画のような音楽がここに存在しているのです。

   僕が入手したのは1000セット限定のデラックス・エディションでしたが、
それにはもう1枚CDが入っていて、ここだけの曲やインストバージョンが含まれ
ています。 通常盤には歌詞のクレジットがあるかどうか、確認できていません
が、このデラックス・エディションには直筆と思われる歌詞があり、その言葉数
の少なさとシンプルな単語を目で追いながら、聴くことができて、。
  
   ラストの前に「Fin De Siecle」(フランス語で世紀末の意味だそうです)と
いう印象的なインストがあり、ラストの「After Dark」を迎えるのですが、最後の
この曲の歌詞が素晴らしいです。 どんな日本語に訳しても陳腐になってしまう
と思われるので、その歌詞をここに掲載しておきたいと思います。

   Paul Buchanan の「Mid Air」は、今年一番のアルバムかと問われたら、
そんな比較にすること自体が意味のない別世界に存在するアルバムだと、
答えることにしています。

[After Dark]

Life goes by
And you learn
How to watch
Your bridges burn
Didn't I tell you
Everything I wanted ?
How I loved you
When I love you
Most of all

Evening falls
On me now
A Carousel
On empty ground
Didn't I tell you
Everything I wanted ?
But I loved you
And I love you
After dark

Yeah I love you
And I know you
I was always thinking of you
How I love you
When I love you
After dark.


O.S.T. (We Bought A Zoo) music by Jonsi [ICELAND]


幸せへのキセキ

幸せへのキセキ

  • アーティスト: サントラ
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2012/05/30
  • メディア: CD



  映画「幸せへのキセキ」(原題:We Bought A Zoo)のサウンドトラック・アルバムです。
しかし、これがただのサントラではありません。 前回、ここで取り上げたシガー・ロスの
フロントマンである Jonsi のソロアルバムと言えるほどの作品なのです。
  監督のキャメロン・クロウが、映画のイメージを頭に描いて、ヨンシーに音楽を依頼し、
ヨンシーが快諾したことから制作されたというこのアルバムは、同時期のシガーロスの
新作「ヴァルタリ」と交互に聴いて楽しむことのできる素晴らしい仕上がりです。

  その前に映画の話も少し。 キャメロン・クロウ監督にとって6年ぶりとなるこの映画は
、妻を亡くした夫が子供たちのために閉鎖寸前の動物園を買収し、再生させるという実話
を元にしたもの。 実際に映画を見ましたが、主演のマット・デイモンの男らしく、優しく、
子供思いの父親像は本当に感動的でした。 実際に娘をもつ父親として、彼のように
背中で引っ張っていくような行動力には感銘を受けました。 是非とも、見てほしい映画
ですね。
  その映画は新緑の光に包まれているようなイメージなのですが、それを効果的に
演出しているのが、ヨンシーの音楽です。 彼の妖精のようなボーカルと、浮遊感あふれ
るサウンドは、まさに希望の光がさすような雰囲気。 この映画にぴったりです。
  「ヴァルタリ」に比べると、はるかに聴きやすく、親しむやすいサウンドだと思います。
そう考えると、シガー・ロスの「ヴァルタリ」は、エンターテイメント・ビジネスの世界から
はるか遠い渚にたどりついてしまったかのような存在だということに気付きました。
いっぽうで、ヨンシーはアメリカの映画業界、まさにハリウッドとの接点をかろうじて、
ここで見出しているという気がします。 これがバンドとソロとしての音楽の違いでしょう。
仮にそれが逆だとしたら、シガー・ロスというバンドが存在する意味を疑ってしまいます。

  さて、今年のサマーソニック2012で来日するシガーロス。「ヴァルタリ」のサウンド
でライブができるかどうか非常に興味がありますが、もしかして、このサントラの印象的
なフレーズが飛び出したりして。 
  おそらく、そういうことはないと思いますが、どちらに転んだとしてもライブは必見です
ね。 楽しみです。


Sigur Ros [ICELAND]


Valtari

Valtari

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMI
  • 発売日: 2012/05/28
  • メディア: CD


   かなり孤高の存在となってきたシガー・ロスの久しぶりの新作です。 前作もこの
ブログで取り上げていますが、その日にちは2008年8月13日でした。 あれから、もう
4年も経過しているわけですね。

  前作の「残響」は、彼らのポジションをより強固なものにした傑作ですし、そのクオリティ
は僕の周りにいる音楽ファンならば誰にでも推薦できる内容でした。 アルバムの始まり方
には、はっとさせられるアイディアもあって、一気に聴き進むことができました。

  では、この新作はというと、一言で言うと、「もの静か」です。 昔のシガー・ロスを聴いて
いないので、彼らのキャリアのなかでの立ち位置は語れませんが、少なくとも前作よりは
「地味」です。 水しぶきが木の葉から落ちた瞬間に光に反射するようなきらめきのような
ものは感じません。 ちょっと前に出た「Jonsi & Alex」に近いかなと思ったりしますが、
そうでもないような。
  ふと、ヒーリングサロンとかのBGMを最高級なものに入れ替えるとしたら、このアルバム
がいいのでは、と思ってしまいました。 足裏をマッサージしてもらいながら、聴いたら最高
でしょうね。 あの安っぽいシンセのサウンドでは、まったく癒されませんから。 
  そう考えると、宗教的な匂いもしなくはないです。 何か新しい光に導かれて、ゆっくり
と進んでいくような、そんなアルバムです。

  リズムがほとんど排除されていることもあって、このアルバムを発表した後での彼らの
ライブはいったいどんなものになるのか全く想像できません。 僕は少なくとも、座って聴き
たいです。 もしくは、プラネタリウムのなかとか...

  なんて雑感を並べてみましたが、買って後悔は全くしていません。 彼らの素晴らしさ
は、サウンドだけでなく、アルバムのデザインにもあるからです。 遠くに浮かんでいる船
を映した今回のジャケットは手にとりたくなるようなもの。 紙の素材の質感も含めて、
作品トータルの重要な要素となっていると思います。 もし、あなたがカフェやサロンを営ん
でいるのであれば、持っていて損はないと思います。


Rufus Wainwright [USA]


Out of the Game

Out of the Game

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Decca U.S.
  • 発売日: 2012/05/01
  • メディア: CD


  Rufus Wainwright のアルバムの中で、もっともポップで親しみやすい
作品との触れ込みで、話題になったものの、いつもと同じような雰囲気で、
しかるべきところに落ち着いた感のある新作を取り上げてみました。

  プロデューサーに、最近売れっ子の Mark Ronson を起用したとのこと
ですが、彼の指向や過去作品に関する知識もないために、それがこの作品
の内容にどう関与したかはコメントしようがありません。

  ただ、ポップになってわかりやすく、彼の音楽をより身近なところに引き
寄せた貢献は少なからず、プロデューサーの手腕があってのことでしょう。
  1曲目「Out of the Game」のサビなんかは、明るくなった Ron Sexsmith
を思い起こさせます。  おとぎ話のなかに紛れ込んだみたいな「Welcome to
the Ball」、Rufus の美声が堪能できる「Montauk」、変拍子とめくるめくメロディー
が錯覚の世界にいざなうような「Perfect Man」など、個々の楽曲は変化に
富んでいて、飽きさせない展開を見せています。

  ラストの「Candles」に至っては、父親 Loudon Wainwright Ⅲがボーカルで
、伯母の Anna McGarigle がアコーディオンで参加しており、音楽一家で育った
彼らしいエンディングとなっています。 さらにクレジットをよく見ると、コーラス
にはMartha Wainwright (これは妹ですかね)、Jenni Muldaur (マリア・マルダー
の娘?)、そして Lucy Roche (ローチェス三姉妹の誰かの娘?)など、彼の
家族や友達の輪が集っていました。 緩やかな川の流れのような 7分を超える
大作ですが、特別に神聖な雰囲気もただよい、バグパイプの音色が郷愁を誘い
ながら、アルバムは静かに幕を下ろします。

   こうして何度か聴きこむと、たしかに Rufus Wainwright の魅力である美声と
ソング・ライティングの安定感はいかんなく発揮されていました。 しかし、彼が
日本でいま以上に知名度を上げるために必要な決定打となる作品になったかと
いうと微妙な気もします。 けして悪いアルバムではありませんが、そんなことを
考えると微妙な気分になってしまいました。 僕のようなひねくれたリスナーには
もっと難解で遠い存在のままでにいてくれたほうがいいのかもしれません。

   もちろん、それは少数派の意見ということで。


Rumer [UK]


ボーイズ・ドント・クライ(初回限定バリュー・プライス)

ボーイズ・ドント・クライ(初回限定バリュー・プライス)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2012/05/30
  • メディア: CD



  久しぶりの更新です。 ちょっと素敵なCDがたまってきたので、マメにアップして
いこうかなと思っています。

  そんな初夏にふさわしい、Rumer のセカンド・アルバムをご紹介しましょう。 
ルーマーはイギリス出身のSSWですが、バカラックも絶賛するというスムース&
メロウなサウンドを奏でることで、個人的にはバカ売れしたアデルよりも、ずっと
好みです。
  そんなRumer のセカンドは、いきなりカバーアルバムです。 先行シングルが
Jimmy Webb の必殺の名曲「P.F. Sloan」だったので、めまいがするほど興奮
しました。 この名曲は、Association の合唱団のようなアレンジもいいし、Cassell
Webb のような神秘的なカバーも捨てがたいのですが、原曲がいいだけに、Rumer
のバージョンも問題なく100点ですね。

  他にも、Todd Rundgren の「Be Nice To Me」や、Stephen Bishop の「Same
Old Tears On A New Background」など、通好みの選曲に完全にノックアウト状態。
Facebook で「いいね!」を100回くらい押したい気分です。 Paul Williams の「Travelin'
Boy」なんか聴くと、涙があふれてくる気分です。 個人的にArt Garfunkel のバージョン
が最も好きなのですが、それに匹敵する素晴らしさです。
  このようなセンスあふれるカバーは、オリジナルへの敬意が全編にわたって感じら
れるからこそ成立するものだと思います。 その証として、ブックレットには、オリジナル
のアルバム写真、アーティスト名、作詞・作曲家名などが大きく紹介されており、その
丁寧なものづくりには感心させられました。

  ちなみに、このアルバムを輸入盤のデラックス・エディションで買いましたが、通常盤
より4曲多いので、お買い得です。 国内盤はさらに1曲多いとか。

  せっかくなので、収録曲を全部書いておきましょう。 すべてのSSWファンにささげる
若き緑の日々のようなアルバムです。

P.F.Sloan / Jimmy Webb
It Could Be The First Day / Richie Havens
Be Nice To Me / Todd Rundgren
Travelin' Boy / Paul Williams
Soulsville / Issac Hayes
Same Old Tears On A New Background / Stephen Bishop
Sara Smile / Hall & Oates
Flyin' Shoes / Townes Van Zandt
Home Thoughts From Abroad / Clifford T.Ward
Just For The Moment / Ron Wood & Ronnie Lane
Brave Awakening / Terry Reid
We Will / Gilbert O'Sullivan
Andre Johray / Tim Hardin
Soul Rebel / Bob Marley and The Wailers
My Cricket / Leon Russell
A Man Needs A Maid / Neil Young

  デラックス・エディションのブックレットの最終ページに手書きの歌詞が。
何の曲かなと思ってみたら、Randy Newman の名曲「Marie」の歌詞の一部
でした。 うーん、これは次作につながっていくのでしょうか。 こんな憎い
ほのめかしに、年甲斐もなく浮かれてしまうのでした。


Boys Don't Cry

Boys Don't Cry

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Warner Bros UK
  • 発売日: 2012/05/29
  • メディア: CD



Boys Don't Cry: Deluxe Editon

Boys Don't Cry: Deluxe Editon

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Warner Bros UK
  • 発売日: 2012/05/29
  • メディア: CD










Destroyer [CANADA]


Kaputt

Kaputt

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Merge Records
  • 発売日: 2011/01/25
  • メディア: CD


   カナダのベテラン SSW によるユニットとタワレコの店頭で紹介されていたアルバム。
Destroyer がタイトルでアーティスト名が Kaputt だと思って買ったのですが、どうやら逆
でした。 しかしひどいネーミングです。 僕のように中年になると、デストロイヤーで思い
出すのはあの覆面レスラーしかないですから。

   この Destroyer がスタートしたのは1995年のバンクーバーでのこと。 Daniel
Bejar を中心とするユニットで、本作が9枚目だそうです。 彼らの音には初めて接した
ので、当然ながらサウンドの変遷などがわかりません。 ただ、ネットで調べてみると、
かなり変化しているようで、ドリーミーだとかチルウェイヴといった形容をされています。
たしかに、Bon Iver のようなサウンドがグラミー賞にノミネートされ、それなりに知名
度を上げているのは、世の中にあふれた人工的なデジタル音に対する拒否反応なの
かもしれません。 あるいはバランスをとる意味で必要性が増してきたみたいな。

   しかし、このアルバムは大名盤!  音のシンプルさと、奥のほうで響くトランペット
やフルートなどの生音、そしてゆったりと刻み続けるリズムが心地よいです。 Felt の
ようなネオアコの雰囲気もありつつ、Fra Lippo Lippi の最初期のような凍てつく感じも
ただよったりします。 でも一番近いものを感じるのは Perry Blake の名盤「California」
かもしれません。 音の魔術師的なエコー感が似ているかなあと。
  そんなことを考えつつ、これは久しぶりに発見されたドライブ・ミュージックかな
と思うのは、さきほどまで降り続いていた雪を見ていたせいかもしれません。 雪に
覆われた高原をロングドライブするときの BGM としては最高でしょう。

  さすがカナダです。1970 年代から良質な SSW を生み出してきた北国の伝統を
見せつけられました。 ぜひ、Tony Kosinec のカバーでもしてもらいたいものです。


The Black Keys [USA]


エル・カミーノ

エル・カミーノ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: CD


   アメリカのロック・フェスティバルで「コーチェラ」というデカいフェスティバルがある
ようです。 当然ながら行ったことはないのですが、3日間のうち初日のヘッドライナー
(紅白でいうトリみたいなもの)を彼らがつとめると人づてに聞いて、初めて存在を知りま
した。

   ほんと、その程度の予備知識ですが、2日目のトリは Radiohead だし、アメリカでは
相当な人気があることの証には違いありません。 日本ではまだまだで、タワレコとかでも
大展開というわけにはなっていないようです。 しかし、よほどの実力がないと、ヘッドライ
ナーは難しいわけで、そのあたりを CD 音源から見出すことができるかいう点に的を絞って
買ってみました。

  「El Camino」というスペイン語のタイトルからして、アメリカとメキシコのボーダーあたり
のほこり臭いサウンドを誰もがイメージすると思います。 しかも、このクルマのジャケットは
1970年代の雰囲気もただよいます。 で、実際聴いてみると、だいたい想像通りでした。
  もう少し、Los Lonely Boys のようにブルージーな感覚が強いかと思いましたが、そこ
そこという感じでしょうか。  国境の音楽というよりは砂漠の音楽といった感じです。 
骨太でごつごつした手触りは、いまのアメリカには貴重な存在なのでしょう。 彼らでなく
ては表現できないような個性があるかというと、かなり微妙ではありますが、うまく見つけた
スポットにすっぽりともぐりこんだというのが、マーケティング的にはあてはまるような気が
します。

   ということで、ライブを見てみないと彼らの真価はわかりませんね。 個人的には、
「Little Black Submarines」という曲が、Led Zeppelin の「天国への階段」にそっくり
なので、てっきりカバーかと思ってしまいました。 これは、どうなんでしょう。 Amazon
のレビューでも同じようなことを書いている人がいますが、個人的にはこれはあまりにも
パクリなのでいただけません。 偉大な先人へのリスペクトであれば、堂々とカバーして
ほしかったと思います。 
    しかし、この曲は物議をかもさないのでしょうか。 すでにリスナーの多くは
Led Zeppelin すら知らないという時代に来ているということだったら、仕方ないのですが。


Jonas Bjerre [DENMARK]


スカイスクレイパー

スカイスクレイパー

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: CD


   前回、ここで紹介した Bon Iver がミュージック・マガジン誌のベスト・アルバム
2011 の北米部門で 1 位を獲得しました。 正直、そんな高い評価でいいのかと疑問
に思っているのですが、音楽は聴く人の主観にゆだねればいいので、まあそんなもの
かと思っています。

  たしかに Bon Iver の冷たい空気感は嫌いではないのですが、それだったらずっと
こちらのほうがいいなあ、と思えるアルバムに出会いました。 デンマークが生んだ秘宝
ともいえる新進的なバンド MEW のボーカリスト、Jonas Bjerre (ヨーナス・ブジェーリ)
のソロアルバムです。 

  タイトルが Songs and Music from the Movie SKYSCRAPERとあるとおり、この
アルバムは映画「スカイスクレーパー」のサントラ盤です。 しかし、ここには透明感に
あふれた Jonas Bjerre のボーカルが全編にあふれており、気品のあるサウンドにつつ
まれて、まるで氷の宮殿に迷い込んでしまったのような気分にさせらます。 クリスマス
から年末にかけて、光のイルミネーションに包まれる遊園地に出かけたときにヘッドホン
で聴いていたくなるような、そんなメルヘンチックなムードもただよっています。

  映画のサントラなので、輸入盤は平凡なジャケットのようですが、ここにある国内盤
は、氷の妖精とあざらしが合体したみたいな「ゆるきゃら」がイラストとなっており、こちら
のほうがサウンドをイメージするのにぴったりかと思います。  実際の映画に、これが
登場するのでしょうか。 映画が日本で公開されるのかどうかもわからないので、なんと
も言えませんが。

  誰もが心に傷を負った2011年がまもなく終わろうとしています。 胸に染み込んだ悲し
みは、そう簡単に忘れることはできないでしょうけど、こうしてキラキラした音楽を聴いて、
すこしでも癒される人が増えればいいなあと思います。




Bon Iver [USA]


Bon Iver

Bon Iver

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Jagjaguwar
  • 発売日: 2011/06/28
  • メディア: CD


   毎年恒例のグラミー賞のノミネートが発表されました。 個人的にはまったく
興味がないのですが、何気に知ったノミネートのなかに、Bon Iver の名前がある
ことにびっくり。 今年発売されたアルバムをあらためて聴きなおしてみました。

  ボン・イヴェールと読むこのアルバムを知ったのは、Amazon のレコメンドで
した。 最近、なかなかかゆいところに手が届き始めたなあと感心していたところ
で、ユーザーレビューも高い評価だったので、エイヤーで買ってみたのです。

  結果としては予想したよりも SSW っぽくないと感じたので、そのまま放置気味
ではあったのですが、こうして時間をあけて聴くとじわっと染み込んでくるものを
感じます。 それは、ちょうど真冬のような寒さとなった今日の天気のせいかも
しれません。 北欧の針葉樹林にいるかのような空気の冷たさが、ここには横たわ
っています。 サウンドとしては、Sigur Ros や Jonsi のソロに近いボーカルの
加工が施されており、リズム・セクションは可能な限り存在を消すように奥まって
います。 グラミーの最優秀楽曲賞にノミネートされた「Holocene」などを聴くと
その浮遊感はドイツの Can に近いかも、と思ったりして。

   アルバムとしての完成度を高いとみるか否かは、リスナーの感性次第なの
ですが、僕としては世界観の打ち出し方は見事にはまっていると思いながらも、
やや単調で退屈してしまいます。 その要因は彼の薄っぺらい裏声と、そこから
人間味を取り除くかのようなエフェクトにあるように思います。  現代的で独創的
であり、意欲的な作品であることは認めますが、このまま君はどこへ向かっていく
の、と問いかけたくなる作品です。

   Bon Iver はこのように魂を凍結させながら、きっと北へ向かうしかないの
でしょう。

David Mead [USA]


Dudes

Dudes

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Pierian Recording Society
  • 発売日: 2011/11/15
  • メディア: CD


   David Mead の新譜が発売されているのを発見しました。 いつもは、発売から
半年くらいしてから気づくことが多いのですが、今回は我ながら早いと思います。

   しかし、まず驚いたのはこのジャケット。 David Mead はこんな顔だったのか、と
若干がっかりしつつ、よく見ると髪型が悪いんじゃないかと思うようになってきました。
これが Edwyn Collins の「Georgeous George」のようにカッコよく決まればよかった
のに、と思います。 タイトルが「Dudes」(気どりや)ですからコンセプトは間違ってい
ないと思うのですが。

   とはいえ、この堂々とした姿からは今までの彼にない自信が感じられ、それが
作風の変化につながっているのではないかという期待が徐々に湧いてくるのも事実。
実際に聴いてみると、信じられないほどにバラエティに富んだ音作りがなされており、
内省的でしんみりしていた David Mead 像はすっかりふっとんでしまいました。
   80年代の Squeeze が歌いそうな「King of the Crosswords」、幼児番組向けの
曲のような「Bocce Ball」、ほとんど70年代風のソウルアレンジの「No One Roxx This
Town No More」、こんなにアップテンポの曲は初めてだと思う「Knee-Jarek
Reaction」で聴くことのできるカラフルなサウンドは、まったく別人になってしまったか
と思うほどです。
   ただ、それが全部というわけでもなく、「I Can't Wait」や「Tell Me What I
Gotta Do」、「The Smile of Rachael Ray」のような清々しいサウンドもしっかりと収録
されており、ほっとした瞬間もしくは安らぎのひとときを味わうことができます。

  いずれにしても、過去の路線のままでは新たなファンの獲得も難しく、このまま
シーンに埋もれていってしまうことを恐れたのでしょう。 この方向性はミュージシャンと
して悪いことではありません。 こうして何度も聴いてみると、新たな側面と本来の持ち
味を交互にならべた曲順などもかなり意識された感じがあり、David Mead の新たな
リスタートを祝福し、応援したくなるのです。


Ryan Adams [USA]


Ashes & Fire

Ashes & Fire

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Columbia
  • 発売日: 2011/10/18
  • メディア: CD


   今年の秋は大豊作です。 すでに、Wilco、The Jayhawks、そして Joe
Henry と立て続けに渋いアメリカン・ロックを紹介してきましたが、今日は取り上げた
Ryan Adams の新譜は、それらを凌駕する今年最高の SSW アルバムとなりました。

  前作「Easy Tiger」から4年ぶりとなる「Ahes & Fire」は、前作のような自信みな
ぎるロック路線から一転、内省的なフォーク路線となっています。 この変化をどう受け
とるかはリスナー次第ですが、個人的には、Ryan Adams の感情を押し殺したり、情念
が漏れ出たりするボーカルの上手さに完全に参ってしまいました。 こんなに歌が上手い
といは本作を聴くまで気がつきませんでした。

  オープニングの「Dirty Man」、つづくカントリー風ワルツ「Ashes & Fire」、繊細な
バラード「Come Home」と、ゆったりとした時の流れの中で、極限までそぎ落とされた
シンプルでアコースティックなサウンドがゆるやかに蛇行していきます。  バック陣は
Benmont Tench のハモンド、Norah Jones のピアノ、Gus Seyfert のベース、
そして Jeremy Stacey のドラムスが主軸となり、曲によりストリングスが加わって
くる構成できわめて素朴で、まるで焚火のまわりでセッションしているかのような
リラックスした雰囲気も感じつつ、しんとした冷たい空気感が同居しているという
イメージです。

   ほとんどの曲が抑揚の効いた 70 年代風フォークのようなサウンドなので、おそらく
若いファンからは中盤あたりで敬遠されてしまうかもしれません。 しかし、この音に
繰り返し接することで、はじめて遠方に見えてくる新しい世界のことを忘れてはいけま
せん。 それは蜃気楼か幻かもしれないし、もしかすると希望の町かもしれないの
です。  Ryan Adams がついにたどりついた境地を、彼とともに共有するには、この
アルバムを繰り返し繰り返し聴き続けることでしょう。 それはある意味、修行のような
行為に思えるかもしれませんが、無理やり向き合う必要はないと思います。 仕事
をしながら、本を読みながら、通勤途中でヘッドフォンで聴く、といったいろんな聴き方
を受け入れてくれるアルバムだと思います。 

   ラストの 3 曲がまたしびれます。 心のひだを炙り出すような「Kindness」の素晴ら
しさ。 「Lucky Now」の枯れた味わい、そしてラストの「I Love You But I Don't
Know What To Say」で描きだされた喪失感には、短編小説の読後感と似たものを
感じます。  

   このアルバムは、才能あふれる大物ミュージシャンであることは誰もが認める Ryan
Adams がついに到達したひとつの頂点でしょう。 この秋、最大の収穫といえるアルバム
です。



Joe Henry [USA]


レヴァリー

レヴァリー

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2011/10/26
  • メディア: CD


   MUSIC MAGAZINE 誌の年間ベスト10の常連にして、コアな音楽通を毎回唸らせ
ているが、そのホットスポットから放れると、全く無名といってもおかしくない Joe Henry
の新作が発表されました。 多くの評論家が言及しているとおり、現代アメリカの SSW
界において最も異彩を放つミュージシャンであり、まさに鬼才ともいえる Joe Henry です
が、このアルバムが、また前作とは違ったシンプルさをたたえながらも、素晴らしい作品
に仕上がっています。

  Joe Henry の音楽は、もしTom Waits が 1970 年中盤にダミ声に変声しなかった
ら、こんな音楽を奏でていたに違いないと思わせるもの、と勝手に解釈しています。 
よって、すでに近年の Tom Waits は僕の興味の重力からは、軌道を放れて行ってしま
っています。

  Joe Henry のギター、ボーカルに加え、Keefus Ciancia のピアノ、David Pitch の
アップライトベース、Jay Bellerose のドラムスという4人が基本編成で、曲によっては
Marc Ribot などのおなじみのゲストが参加しているというスタイル。 ここ数年の作品
のなかでは最もシンプルで音数が少ないような印象を受けます。 比例して前面に出て
いるのが、渋さをより増した感のある Joe Henry のボーカルです。 歌というよりも、
ストーリー・テリングのように聴こえる曲もあったりして、そこを引き立てているのは、Jay
Bellerose の乾いたスネアの音ですね。 デジタル時代のいま、このような音をどのよう
な機材でレコーディングしたのか気になりますが、小劇場でお芝居を見ているような
錯覚におちいるほどの、近距離さを感じます。 そのあたりは、Joe Henry がプロデュ
サーとして培ってきた才能の蓄積なのでしょう。 音の魔術師、というと陳腐に響きま
すが、まさにそんな感じなのです。

  本作「Reverie」には音楽以外に重要な要素があります。 それはNotes (Life
Beyond Trembling) と題された短編小説のようなものです。 国内盤の解説では
「手記(震えの先にあるもの)」とあるこの文章は、それだけで独立した存在となっており
、これも含めて「Reverie」がひとつの作品なのだということを感じます。 デジタルで
データだけ入手するわけにはいかない、パッケージの魅力がここにはあります。  
英語の理解力のない僕のような人間には国内盤での訳が、今回はとても重宝しま
した。

  このアルバムを両親に捧げると明記した作品。 近年の Joe Henry の創作活動
の充実度を感じるのは毎回ですが、今回は、そこから放たれた鬼気迫る人間力に圧倒
される気がしました。


The Jayhawks [USA]


Mockingbird Time

Mockingbird Time

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Rounder / Umgd
  • 発売日: 2011/09/20
  • メディア: CD


   The Jayhawks 久しぶりの新作は、Rounder に移籍してのリリースとなり
ました。 そして、最大のニュースは Mark Olson の復帰です。 Gary Louris とは
2008 年の年末に Mark Olson & Gary Louris 名義でアルバムを発表していたの
で二人の復縁は明らかになってはいたものの、こうして The Jayhawks 名義で作品
をリリースされると感激もひとしおです。

  前作の「Rainy Day Music」は2003年のリリースでしたので、8年ぶりとなる
この新作。 「Rainy Day Music」はMark Olson が抜けてからの The Jayhawks
のなかでは傑作だったので、この「Mockingbrid Time」への期待は否応にも高まり
ます。 その期待は1曲目の「Hide Your Colors」でいきなり暴発。 いきなりふたりの
コーラスがユニゾンのように延々と続く Jayhawks 節ともいえるサウンドに、のけぞり
そうになります。 アコースティックでシンプルなサウンドに大きな変化はなく、セコイア
の大木が時とともに年輪を増していくように円熟したアメリカン・オルタナ・カントリーの
世界が広がります。

  彼らには、Wilco のような独創性やアイディア、先進性は感じられませんが、
それを理由に過小評価する理由はないと思います。 いい音楽をマイペースで続ける
こと自体が難しい時代だと思うからです。 「She Walks In So Many Ways」のような
ポップな曲に対しては、素直に向かい合って体を動かせばいいし、「Guilder Annie」
のようなバラードの前で目を閉じるも良し、「Black-Eyed Susan」のストリングスに
心を共振させるのです。 自分のメンタル状態を投影するかのような気持で、アルバム
を聴くことが大事です。

   このアルバムは2010年の11月から12月にかけてミネソタ州ミネアポリスでレコー
ディングされました。 この時期には雪も降り始め、かなり寒いと思います。 そうした
空気感を感じたり想像しながら接するのも、秋の夜長の過ごし方としては、悪くない
ですね。 国内盤が発売される気配はまったくありませんが、来年あたりの夏フェスで
待望の来日となってほしい偉大なアメリカン・バンドです。


Wilco [USA]


ザ・ホール・ラヴ

ザ・ホール・ラヴ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2011/09/28
  • メディア: CD


   現代のアメリカにおける最重要バンドである Wilco の新作は自らが立ち上げた
レーベル dBpm からリリースされました。 Bonus Track として Nick Lowe の「I
LoveMy Label」を収録したのも、彼らの新たな出発に対する自画自賛みたいなもの
でしょう。

   アルバムはノイズ的な入りからメロトロンによる音の波、そしてニルスの攻撃的な
ギターがさく裂するアバンギャルドな大作「Art Of Almost」で幕開け。 もしかして、
自信のレーベルをもったことで、マイナー指向が強まったのではないかとの不安がよぎ
りますが、その心配はここまで。 つづくシングル「I Might」からはほぼ4分程度の楽曲
がバラエティに富んで陳列されています。 この「I Might」は先日の、フジロック・フェス
ティヴァル でも演奏したので、耳に覚えがありましたが、曲調のシンプルさが際立って
います。 同じような雰囲気をたたえた「Dawned On Me」、ギターのフレーズが印象
にのこる「Born Alone」、ノスタルジックなカントリー「Capital City」など、かなり淡々と
中盤は進行していく印象です。 ギターが炸裂して目が覚める「Standing O」、アルバム
タイトルでありながら脱力系な「Whole Love」など、あっさりアルバムが終わっていくよう
に思えますが、ラストは12分の大作。 ところが、この曲には斬新なアイディアや意表を
つく展開は用意されておらず、ゆるやかに時間だけが過ぎ去っていく感じでした。

  そういう意味ではボーナストラックの「I Love My Label」は飲み会の締めの一言
みたい立ち位置で、あったほうがしっくりくると思いました。

  正直言って、いまの Wilco の実力を100%フルに発揮した作品だとは思えません。
もっとすごいアルバムが作れるはずだと思います。 このアルバムは、まずは引越しの
ご挨拶ということなのでしょう。  しかしながら、するめのように聴けば聴くほど味わいが
増していくあたりは、Wilco ならではの音楽の魔法が十分にふりかかっていることを表して
います。


The Red Button [USA]


As Far As Yesterday Goes

As Far As Yesterday Goes

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Grimble Records
  • 発売日: 2011/06/21
  • メディア: CD


   木曜日の Tower Record 渋谷店。 前回とりあげた Russian Red のとなりに
大展開されていたのが、この The Red Button です。 お店の人も書いていましたが、
ジャケットでがずるいですね。 1960年代初頭の雰囲気を漂わせ、きちんと季節感も
合わせてくるあたりの計算高さからは、音楽のクオリティの高さやサウンドへのこだ
わりを予感させます。

  はずれはないと確信して聴いたところ、これがまたずるい。 初期の The Beatles や
The Beach Boys へのオマージュのような楽曲のオンパレード。 曲によっては、The
Pale Fountains に代表されるような原点回帰的なネオアコの要素も加わり、あっという
間に全12曲が過ぎ去って行きました。 この青春の味わいをなんと表現すればいいの
でしょう。 ノスタルジックに赤面するもよし、純粋に心を熱くするもよし、平静を装って
器用な奴らだと論評するもよし、いろんな聴き方があると思いますが、それはすべて
リスナーの選択。 ここにある音楽を変えることはできません。 僕的には、メロディーも
サウンドも好きですが、甘酸っぱいボーカルとハーモニーがいいかな、という感じです。

  この The Red Button は、Seth Swirsky と Mike Ruekberg の二人による
ユニット。 ロス・アンジェルスを拠点に活動しているようですが、ふたりとも正真正銘
の音楽オタクなのでしょう。 きっと出会ったきっかけはネット経由じゃないかと妄想して
しまいます。 CDトレイの後ろにある写真からは、一見普通のように見えながらも、ただ
ならぬ視線をたたえた表情がうかがえます。

  この秋、恋人へのプレゼントに、ドライブのお供に、この The Red Button がいれば
きっとうまくコトは運ぶのではないでしょうか。 初期の杉真理が好きな方にも、お薦め
の素敵なアルバムです。

2007年のファーストも素敵なジャケットでした。


She's About to Cross My Mind

She's About to Cross My Mind

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Grimble Records
  • 発売日: 2007/03/13
  • メディア: CD



Russian Red [SPAIN]


Fuerteventura

Fuerteventura

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Sony Import
  • 発売日: 2011/07/05
  • メディア: CD


  ひそかに輸入盤で売れている気配を感じ取って手にしたアルバムは、スペイン
の SSW Russian Red のセカンド・アルバム。 このアルバムをもって、全世界に
打って出ようという意欲的な作品のようです。
  
  本名は Lourdes Hernandez という女性のソロ・ユニットである Russian Red。
彼女がロシア共産党に関与しているということは全くなく、単に愛用している口紅の
名前だそうですが、謎のタイトル「Fuerteventura」とは間逆に覚えやすいネーミング
だと思います。

  まず耳に残るのは、2曲目の「The Sun, The Trees」に代表されるような北欧
ポップス系のカラフルなイメージです。 古くは Cardigans、Meja そして Sophie
Zelmani などが好みだった人にはストライク!というサウンドです。 ひと昔前だっ
たら、FM で飽きるほどかかったかもしれません。 そのくらいオンエアしやすい
楽曲を久しぶりに出会った気がします。 しかし、アルバムはそんなカラフルさに
満ち溢れているかと思うと、意外と淡くしんみりした雰囲気に包まれていきます。
  
  この淡さがアルバムの最大のポイントです。 ちょうど、9月になってうろこ雲が
夕暮れをおおうときのような気分、それはすがすがしいけど、さみしさのほうが上回っ
てしまう晩夏から初秋にかけての空気感。 そんな風景のBGMにぴったりなのです。

  個人的には「秋の夜長にSSW」と主張し続けているのですが、このアルバムもその
仲間入りすることになりました。 「Dadarada...」なんてバラードを聴いていると、
自分を勝手にセンチメンタルに追い込みたくなります。 そういえば、このアルバムには
「Tarantino」とか「Nick Drake」といった人物名をタイトルにした曲が含まれています。
タランティーノはどうでもいいとして、ニック・ドレイクには反応しないわけにいきません。
Dream Academy の永遠の名曲「Life In A Northern Town」の12inch シングル
に Dedicated To Nick Drake とクレジットされていたことを急に思い出しました。

  話がそれましたが、もう 1 曲切なさでは頂点を迎える「My Love Is Gone」について
も触れておきましょう。 こんな曲をつぶやくように歌われては、男として放っておけな
くなるような楽曲なのですが、このはかなさは、1970 年代の幻の女性 SSW Susan
Pillsbury と Russian Red にしか出せないのではないかと思うほどです。 あ、また
話がそれてしまいそうです。

  財政問題で EU の足をひっぱり、若年失業率が40%を超えているスペインから
彼女のような SSW が登場したのは興味深いですね。 これから、どのように成長
していくか楽しみなニューカマーの登場です。


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